おてつだい

hideaki102004-10-27

今から二年半程前のとある期間、某行き付けの日本酒&ジャズバーのマスターが体調不良で数週間入院した。

急遽酒飲み仲間から有志が募られ臨時マスターが任命された。私は火曜日と水曜日の雇われマスターとなった。いつもと全く違う種類の仕事にわくわくして、料理を考え当日に臨んだ。某女性(○野嬢)とペアでカウンターに入り、ニガウリのいため物、やっこ、卵とじ、時雨煮、枝豆等と、つまみを作った。某○野嬢は酒飲み専門。ほとんど私が中を動き回り、客の対応をした。

特に難しかった事は生ビールをコップに注ぐことだった。始めの頃は泡ばかりで、難しいので練習しておくようにとの前日の当番のおいさんから引継ぎを受けたが、やっぱり難しい。何回も練習するうちに、ついだやつを飲みくらい、完全に酔っ払ってしまった。開店前にすでに結構足に来てしまった。全く泡がないのはだめ、逆に多すぎてもだめ、バルブの止めどころも難しい。こんなこと、勉強にならなくてもいいかも知れないが、とても勉強になった。

開店と同時にいきなり、二、三人お客さんが来た。うれしいやら、忙しいやらでばたばたしたが、つまみを出し終えて一段落すると、またビール、果ては、義侠、鷹来屋、綿屋、あべ勘に手が伸びる。それやこれやするうちに、おかげさまでカウンターから畳の敷いてある囲炉裏の部屋まで超満員御礼で、新しい客を断った時には結構の大酔っ払い状態だった。体はふらふらだが、気持ちはしっかりしており、業務に支障は無い。(ほんとかいな?)

ああ、思い出した、ひとつ困ったことがあった。私は、ソニーロリンズ、ケニーG等のジャズと、お好みの U2 を持参して、音楽をかけたが、某○野嬢は、都はるみが好きでそれをかけてくれという。ミスマッチもはなはだしいが、時間を考えて、演歌の時間帯を作った。私はどちらかというと演歌も好きなほうで、これを聞くともう、情景が目に浮かび、座り込んで飲み始めるタイプなので、その方が困った。10時半になり、店を閉めるべく、のれんをしまい込み、ガスの元栓を締め、鼻歌交じりで片づけを始めたが、カウンターに座っていた本物のうら若きお嬢二人が、見るに見かねてか、洗い物の手伝いにカウンターの中に入ってくれた。

ばたばたと洗いものを手伝ってくれ、コップなどのしまい物も即片付いた。某○野嬢は、私終電があるからとか、早くにあがってしまい、ほとんど自分ひとりでやった。結局最後は私と、お嬢二人と、次の日の担当のお兄の4人で、打ち上げの生ビール一杯だけ乾杯して、即帰途に着いた。

数日後、本物のマスターよりお礼の電話があった。ぼちぼちやりますとのことだったが、売り上げがいつもの倍だったそうで、一応は喜んでいたが、あまり忙しくなりすぎると本人も困るとのことで、これ以上は客は、もういいよ、のんびりやるよーとか、言っていた。ふううむ、あれが倍だとすると、あの半分で一人でなら、やれるんだなと実感した。

本来、ゆったりした環境、旨い酒、いい音楽の類(風、鳥の声、、雨音等)があれば、隠れ家に人は集まる。今回、私は客とまともに話す時間が無いくらい忙しく、余計なことは一切話してないけど、反ってそれが良かったのかもしれない。たとえば、ワインのうんちくなど、ソムリエに垂れられると、もう飲む気が失せてしまう。ここのマスターはお店に入る前に、ある喫茶店でゆっくりコーヒーを飲むのを日課としており、なんでもその喫茶店に通い始めて三年くらいになるそうだが、始めの一年間はその喫茶店のマスターとも一言もしゃべったことがなかったそうだ。そっとしておいてくれたらしい。

いやあ、疲れたけど、面白かったなあああ。違う世界のことを垣間見れて、ほんとにいい経験になった。