あいあいがさ

横断歩道の信号待ち、オイサンに優しい言葉をかけてあげた。俺はやさしい男だから、見て見ぬふりは出来ん。義を見てせざるは勇無きなりと、孔子さんも言っている。
いかにも県○からの仕事帰り、縒れた白シャツに薄めの色のネクタイ、もちろんズボンは履いているし、あたりまえだけど靴もはいている。頭はげーはー、多分でも俺とタメくらいだな、土砂降りの雨のなか、そのオイサンは傘がない、でも行かなくちゃ状態、雨粒が、げーはーの表面を滑り落ちる。お見事!ここまで来ると潔くて俺は好きだな、好感が持てる。

どうぞ、傘にはいりませんか?っと優しく傘をさしかける俺。ありがとうございます、っと俺のことを羨ましそうに見るオイサン。半パン、素足にサンダル、T-shirtsに女もんの傘、仕事はなんしよんのやろかあ、こん人?と思われたに違いないようなまなざしだった。。因みにこの女ものの傘は自宅の近くで二年くらい前に拾ったものだ。まだばりばり奇麗で使える傘だったからあたしが使ってあげてる。。実は傘を拾う前の晩、自宅のこたつでテレビ見ながら酒飲んでたら、外の道路でいきなり夫婦喧嘩か痴話げんかと思しき男女の怒鳴りあう声がしたんで、怖くなって【笑い】、左手に猪口持ったまま、あわてて玄関を開けて観に行ったら、女性がなんか棒みたいなんで男の背中をたたいた。好かんわあ!とか言ったかどうか聞こえなかったけど、へえーえ、、やるう!と思い、なんだったら包丁もありますよ、と一声かけようかと思ったけど、犬も食わないような痴話げんかの類に口出すのも大人げないと思ってたら、二人は即撤収した。。なあんだ、中途半端なけんかやなと思い、家に入って飲み直した次第。

まあそんなことはどうでもいいんだけど、翌朝ゴミを出しに行ったら、なんか棒みたいなもんが落ちてるんで全く近頃の人間は道路にゴミを捨てる、、とか思って拾いに行ったら、傘だった。ははああ、もしかして昨夜、某男性の背中を痛めつけた棒はこれだったんかと思い、さぞ背中が痛んだやろな、代わりに俺が使ってあげるよと、拾った次第さ。。でもなかなかいい傘でもう二年も使っている。。

ちょっと話が逸れたが、信号が変わって歩き始めたら、オイサンは足早に、ばつが悪そうに雨の中を走って横断歩道を渡って行った。

まあ、でもオイサンとあいあいがさっちゃ絵にならんね、はたからみたら、若けえもんに【誰が?】、傘をさしかけられた仕事帰りのサラリーマンっちいう風に映ったやろな。。なんでそんオイサン傘忘れたかって?そりゃ、、朝から夫婦喧嘩して奥さんから傘で叩かれて、取り上げられたんよ、あんたもう濡れち行きよ、傘なんかいらん、って、きっと。。。

傘にはいろんなドラマがあるんよな、きっと。。